人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 それでも、遅くまで働いてくれた侍女たちに感謝の言葉を述べる。

「ええ、ありがとう。明日もよろしくね」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 パタンと扉が閉まると、不気味なほどの静けさに包まれた。
 イレーナはしばらくぼうっとしていたが、やがて部屋を見わたして、それからベッドへ目をやった。
 大きな天蓋付きの広いベッドだ。
 5人くらい並んで寝そべられる広さがあると思った。

「ど、どうしよう……」

 イレーナは急にどくどくと心臓が高鳴り、ベッドの前でうろうろした。

「だ、大丈夫。役割を果たせばいいだけのこと」

 しかし、イレーナは知らない。
 新婚初夜の男女が一体何をするのかを。

「いやいや、でも、お父さまもお母さまも民たちも動物たちもみーんな通る道だから、きっと大丈夫」

 イレーナは自分に言い聞かせるように声に出して言う。

「騒がず、狼狽えず、爪を立てず。おとなしく、されるがままに」

 母から伝えられたことである。
 何をされても抵抗してはいけない。





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