人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「あなたたち、そういう話が好きなのね。普通は話さないものでしょう? 夫婦の、しかも皇帝と妃の夜の事情なんて」
「ええ、イレーナさまだからこそ話せるんです。これがアンジェさまでしたら誰も口を開きませんわ」
「アンジェさま……?」
リアの表情は笑顔から急に真顔になる。
「はい。正妃アンジェさまでございます」
イレーナはどきりとした。
正妃の存在はわかっているが、名前を出されると複雑な気持ちになる。
皇帝の1番目の妃、つまり唯一愛されている妃なのである。
イレーナの胸の奥にちくりと痛みが走った。
それは鼓動の音とともにズキズキする。
(何かしら、これ? 胸の奥がぎゅうって押し潰されそうなくらい痛いわ。まさか病気?)
何度か深呼吸をすると収まった。
イレーナはふうっとため息をつく。
だが、鼓動はまだ収まらない。
「ところで、イレーナさま。先ほどのお薬なのですが、スープにしてお持ちいたしました」
「あら、そうなの……って、何これ?」
ピカピカに磨かれた艶やかなスープ皿に、青紫のどろどろした液体が入っていた。
しかも、強烈な異臭を放っているのだ。
(まさか、毒じゃないでしょうね?)