人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
幸い冷めていたので、衣服が濡れるだけで済んだ。
ヴァルクが何か言おうとしたが、イレーナは目で合図して制止する。
「あなたは我が国の新しい皇帝についてどれくらい知っておいでですか?」
「知るか! 己の欲で戦争ばかり起こして貧しい大人たちを次々戦場へ送り、どんどん孤児を増やしている。その結果がこの状況だ!」
部屋の扉が少し開いていて、そこから子どもたちがこっそり覗いているのを、イレーナは横目で見て気づいた。
少し呼吸を整えて、言葉をゆっくり選びながら話す。
「新しい皇帝は民の心を深く知ります。あなたも一度お会いになれば、考えも変わるかと存じます」
「ふんっ、会いたくもないわ!」
「では、私が皇帝と司祭さまの橋渡し役となるのはいかがでしょうか?」
司祭は眉をひそめ、イレーナを睨み据える。
となりでヴァルクは黙ったままだ。
「あなたが帝国を嫌うのは理解します。長きにわたる確執はそう簡単に解消することはできないでしょう。ですが私は、教会側の事情ではなく、あなたの心を信じたいと思うのです」
司祭はイレーナを見つめたまま、わずかに首を傾げる。
「だって、あなたは、帝国側で親を失った子どもたちを、受け入れて育ててくださっているのですから」