今はまだ、折れた翼でも
「の……、望くんーっ!」



私はかすれて喉が痛そうになるのをこらえながら、大切な人の名前を精一杯叫ぶ。

気が付いてくれたのか、こっちに振り向くのが分かった。

今すぐ駆け出したい気持ちを抑えながら、ゆっくりとひまわり畑の中を歩く。


望くんも歩いて向かってくる。だんだんはっきりするその姿に、ほんとに望くんなんだなって分かって手が震える。

近くなり思い切って手を伸ばせば、掴んでくれた。

ここに、望くんはいる。そう実感できて、涙が出てきそうだった。


やっと、互いに目の前に来る。

すぐそばに望くんがいる。触れられる。

たった数日いなかっただけなのに、こんなに寂しいなんて思わなかった。

だからこうして、会えたことがうれしい。



「……映茉」

「望、くん」



望くんが、切なそうに見下ろす。

そうだ。望くんは、自らそうしたんだから、私に探されて見つけられただけでもいい気はしないよね。

謝罪と感謝を伝えられたらって思ってたけど。もしかしたら、それも望くんにとっては。

あんなにさんざん大きな声で名前を呼んでおいて今更なんだって感じだけど、私、望くんの気持ちを全然考えられてなかったのかもしれない。
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