偽る恋のはじめかた




これはお酒のせいだ、と言い聞かせてもなお、ドキドキしてしまう自分が悔しい。


「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」


そう言い残すと、小走りで何処かへ消えていった。


今のうちに、この(ほて)った顔と胸のドキドキをなんとかしないと。


「ふう」「はあ」と、何度も深呼吸をした。



「あの人は残念上司」
「顔は良いけど残念上司」


ぶつぶつと呪文のように、とっておきのおまじないを唱えた。


何度も繰り返していると、ようやく、ドキドキが収まって、正常な脈拍に戻る。



「お待たせ。家まで送っていくから帰ろうか」


優しい声が耳に届く、と同時に収まった胸がドキドキと波打つ。そんな自分に動揺してしまう。



どこに行ってたかと思えば、私のバッグを手に持ち、小走りで帰ってきた。どうやら、私のバッグを取りに戻ってたらしい。

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