偽る恋のはじめかた
店の外に出ると、ふわっと頬に当たる夜風が気持ちいい。酔っ払いの体には尚更心地良い夜風だ。
桐生課長が、呼んでくれたタクシーに乗り込む。「大丈夫?」座席に座るだけなのに、ずっと優しくて頭がポカポカする。
あぁ、それはお酒のせいか。
彼のせいなのか、お酒のせいなのか。
酔った頭は機能していないので、真相は分からないままだった。
車の優しい揺れに、激しい睡魔が襲って来る。眠らないように必死に抵抗する。
———数秒後には、負けていた。
「おーい。椎名さん」
「おーい。何号室かだけ教えて?」
「・・・んにゃ? 202号室でふ」
———夢の中で誰かに話しかけられている感覚。
体がふわふわ浮かんでいる。小刻みに揺れる振動は心地よい。なんだかあたたかい。この温もりに身を寄せたくなってしまう。