殿下、溺愛する相手がちがっています!

きゅう

 柑橘系の香りと質の良い家具、触り心地の良いシーツ……目が覚めるとフォックス殿下の寝室だった。

 隣にはラビットを抱きかかえて、眠るフォックス殿下。

 シュチュエーション的にはよいのだけど、思いだすのは、彼の…………うわっ、おもいださないでぇ。

 ポフン。

 黒ウサギから戻ってしまった……まだ寝ているフォックス殿下を起こさないように――って。目があった……どうやら、起きていたみたい。

「綺麗だ、ラビット」
 
「み、みないでください、フォックス殿下……ふ、服を貸してください!」

「うん、いいよ」

 フォックス殿下はポフン……狐になってシャツを渡してくる。そうじゃなかったのだけど、いいかと受けとり着たけど、さいきん彼は獣化しすぎだと思う。

「フォックス殿下、あまり獣化されまと……」
「ん? 俺が獣化すると、どうなる?」

 ――どうなるって。

「……王族は原種の血が濃いので野生化してしまうと、本で読みました」

「よく知っているね。僕の為に勉強してくれたのかな。……それについては対策済みだから、心配いらない」

 獣化に対して対策済み? ……なら、よかった。
 ゲームだと、野生化したフォックス殿下は元に戻れず苦しんでいた。

「ごめんね、ラビット。僕は君を離せない……君があの子と僕を、何故かくっつけようとしていたのは知っている。正直、僕もあの子をはじめて見たとき、一瞬だけど気持ちがぐらついた」

 気持ちが、ぐらつく?
 2人がはじめて出会う、イベントでかしら?
 
 そのあとから、2人は惹かれていく。

「ぐらついたのはその時だけ……」

 真剣な瞳で見つめられて、元に戻ったフォックス殿下に手を引かれ、ベッドへと組み敷かれる。

「ラビットは僕のトリガーだ……他の令嬢達が怖がるなか、狐の姿になっても近付き撫でてくれた」

「そ、それは、わたしが獣化するからです」

 ううん、違うと首を振る。

「ラビットはたとえ獣化しなくても、僕を受け入れてくれたと思う。狐姿の俺をみたときの"あの"にやけた顔は一生忘れられない」

 にやけた顔?

「わたし、フォックス殿下を見て、にやけたのですか?」

「うん。はじめて顔合わせで5歳の君は「うわっ、キツネしゃんだ! 可愛い」って、ニィーッて、にやけながら走ってきた」

 ニヤけながら走るって……記憶のない、わたしもやるわね。前世、あなたがいたから"ひとりぼっち"になっても、笑っていられた……あなたから、元気をたくさんもらった。

 だから、フォックス殿下には幸せになって欲しい。
< 10 / 11 >

この作品をシェア

pagetop