世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
私はタクシーの中で掌を重ねたまま、震える身体を落ち着かせようと何度も深呼吸を繰り返す。

「梅子、大丈夫だから」

殿村がそう声を掛けてくれたのは何度だろうか。時間の感覚がまるでない。

「着いた、行こう」

私達はタクシーが病院に到着すると真っすぐに救急外来の受付へ向かう。もう足の感覚もあいまいだ。今まで自分がどんな顔をしてどんなふうに息していたのかも分からないくらいに真っ黒い不安だけがぐるぐると頭の中で増殖して心がつぶれてしまいそうだ。

(あれからどのくらい経ったんだろう)

不安で時間感覚がマヒして指先は震えっぱなしになっている。

「大丈夫だよ」

殿村がそっと私の掌を包んだ。

頷きながら直ぐに受付で桜子の病室の番号を教えてもらい、二人でエレベーターに乗り込み三階に上がる。


「梅子、僕がいるから」

「うん……」

エレベーターを降り、殿村に手を引かれて桜子の名前と病室番号を確認すると私は白い扉を開けた。

「……お母さんっ」

真っ白なカーテンを捲れば点滴を打たれながら桜子が静かに眠っている。私は桜子の頬にそっと触れた。

(良かった……あったかい……)

思わず大きく息を吐き出すと私はベッドサイドの丸椅子に座りこんんだ。


「ん……梅ちゃん?」

桜子がゆっくりと目を開けると、すぐにいつものようににこりと微笑んだ。ただいつもより顔色は悪く疲れた顔をしている。

「お母さんっ……大丈夫なのっ」

「えぇ、さっき私も担当医から説明うけて、ただの過労なのに……梅ちゃん忙しいのにごめんね」

桜子が私の頭をそっと撫でた。

「ううん……そんなことない……ひっく……良かった、すごく心配だったの」

「そうよね、お父さんのこと……思い出させてしまってわよね……ごめんね……」

桜子は目じりを下げると私を安心させるように、手をひらひらさせて見せる。

「でもほんと点滴ってすごいわ、もう元気になってきたもの」

「もう、お願いだから。しばらくは安静にしてよ」

「……そうね……心配かけて……本当ごめんね、梅ちゃん」

桜子が私の頬に手を伸ばすとそっと涙を掬った。


「えっと……ところで……梅ちゃんそちらの方は?」

桜子の声にカーテンの後ろで遠慮がちに立っていた殿村がベッドサイドに歩み寄った。
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