世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「……ごめん……怖かったね。もう大丈夫だから」

触れられた体がビクンと跳ね上がると同時に、その少し高めの甘い声に涙が止まらなくなる。

「せ……かい……くん?」

「もう何回鍵かけてって言えばかけんの?危ないでしょうが」

世界が毛布から私の顔だけ出るようにすると私の両耳を会話できる程度に掌で覆った。世界のジャケットの袖は滴るほどに濡れている。私はそっと世界に手を伸ばした。

「世界くん……びしょ濡れ……風邪ひいちゃ……」

「あ、道混んでたからタクシーおりた。ごめん、冷たいね」

世界は濡れたジャケットを脱ぐとすぐにまた私の両耳にそっと触れながら体を寄せた。

「心奈とはちゃんと話付けてきた」

「え?」

「だから、何も心配いらない。俺は心奈と婚約もしないし都市開発も予定通りだから……あ、
雷少しずつ遠ざかってるね」

雷の音が徐々に小さくなって、目の前の世界の声とワイシャツから香る世界の匂いに心から安心する。

「梅子さん、雷怖いのに……遅くなってホントごめん」

「世界くん……どして……」

「それはどっちの意味?どうして俺がここに来たか?それとも?」

世界が暗闇の中でまだ僅かに見える雷光を背に唇を持ち上げた。

「……雷……苦手って……怖いこと……どうして知ってるの?」

私が雷が苦手なことは、桜子にすら言ってない。私が雷を嫌いなことを知っているのは──。

「いい加減思い出してよ」

世界が私にコツンと額を当てた。

「え?」

「梅子さん……小さい頃俺に言ったよね、舌打ちは幸せ逃げてくって……」

(小さい頃……?舌打ち……?)

窓の外から聞こえる強い雨と雷の音に混じって、あの日の記憶が引っ張られる。呼び寄せられた記憶の糸と糸が緩やかにつながっていく。
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