世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
『あ、雨……』

『……こっち』

男の子は私の手を引くと公園の端にある、てんとう虫型の滑り台の中にあるトンネルへと誘導した。こんな小さなトンネルに入るのは子供の頃以来だ。体を折り曲げて真ん中まで進みしゃがみこむ。ポツリポツリと降り出した雨はすぐに土砂降りになる。

『なぁ。さっきは……ありがと……』

三角座りをした男の子がふいにボソリとつぶやいた。

『えっと……全然っ、あ、あなたより大人だし年取ってる分、経験値と知識があるのよっ。また困ったらこの梅子さんがお悩み相談してあげるって……もう会わないね、ごめん』

『うめこ?』

『え?』

小学生の男の子に下の名前を呼ばれただけなのに、小さく鼓動が跳ねた。

『そうよ?梅の花に子供の子』

『なんか、お姫さまみたいな名前だな。覚えとく。ちなみに俺の名前は──』

あの時、あの男の子は何ていう名前だっけ?

『梅子さん……もし、もう一度会えたら──』

雷が止んで虹がかかった空を二人で眺めながら、あの男の子は何て言ってくれたんだっけ?


大事なところだけが聞こえなくて、思い出せなくて、それでも目の前が滲んでいく。私は目の前の世界に向かって両手を伸ばした。


「……思い出した?」

私にそう訊ねてくる世界の声にまた涙は転がって、私は世界の胸元に顔を埋めた。

雷の音が遠くなっていくのと同時に記憶の糸は手繰り寄せられてあの日と今がひとつになる。

どうして忘れていたんだろう。
どうして今まで気づかなかったんだろうか。
あの日のことを。
世界が約束してくれたあのことを。
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