世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
TONTON株式会社のエントランスを潜り抜け、電車に乗るといつものように夜空には星が瞬いていて、あの日世界とみたまあるいお月様がベージュの色を纏ってこちらを見下ろしている。

(あ、もう22時か……)

世界がイタリアに行ってからはこうして以前よりも残業して帰る日々が続いていた。家に帰れば隣に世界が居ないことを嫌でも思い出して俯きそうになるからだ。

私は改札をぬけるとコンビニでお弁当を買う。

「世界くんに怒られちゃうな……」

ちゃんと食事をするよう言われていたが、結局、一人でオムライスを作ってたべても、豚キムチを食べても世界の顔が浮かんできて涙が滲みそうになる私は、いつからかコンビニ弁当で済ますようになっていた。

(会いたいなぁ……)

見上げたお月様がすぐにぼやけそうになって慌てて首を振った。

「だめだめ……泣いたって世界くんに会えるわけじゃないんだから……」

十分ほど歩けばいつもの見慣れたマンションにたどり着き、私はエレベーターに乗り込む。チンッという小気味の良い音がしてエレベーターが開けば、私はポケットに手を入れながら鍵を探った。

ポケットからは、じゃらじゃらと音がする。

「あ……またタクシー乗ったときの小銭入れっぱなしだわ……」

ふうっと小さく息を吐き出しながら、ようやく鍵を探り当てると引っ張り出した時に小銭が数枚飛び出した。

「げっ……」


──チャリン、チャリーン……


「あっ!」

散らばった小銭のうち一枚の五円玉が、まるで車のタイヤのように縦になってコロコロ転がっていく。私はあわてて追いかけた。


「ちょっと、そこの五円玉止まりなさいっ!」

身をかがめながら走っていけば、五円玉はエレベータの扉にカツンと当たってようやく止まる。

その瞬間にエレベータの扉が開いて、なかから出てきたマンションの住人の革靴が私の五円玉を踏んづけた。

「あっ!ちょっと足!」

私は革靴から上へと視線を移す。

──そして一瞬で声が出なくなる。頭も真っ白になって思考は停止し、ただ瞬きだけを繰り返す。
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