世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「へぇ、かわい」

「か……わ……」

可愛いなんて言われたのは何年ぶりだろう。そもそも学校教諭の元カレは口下手な人だった。好きや可愛いなんてはっきり堂々と言われたことがあっただろうか。

「だ、誰にでもいってんでしょうね!」

「誰にでも言ってないですけど、もしかして俺の過去に妬いてくれてんすか?」

世界は大きな掌で私の頬に触れる。朝のキスを思い出しそうで私はすぐに顔を逸らした。

「女慣れしすぎなのよっ、離れて!」

「ま、女慣れってゆうか、経験人数はそれなりにありますけど?何?童貞のが好みでした?」

「ばかっ、そんなこと聞いてないっ」

「マジで、会社と全然違うんすね」

世界はくるりと部屋を見渡しながら、クスッと笑った。

見れば、一昨日の夜に使ったマグカップがテーブルに置きっぱなしになっていて、コーヒーが丸く輪じみになっている。さらにソファーには『暴れすぎ将軍』のDVDが散乱していて、『30代等身大の悩み特集』と見出しのついた女性雑誌が開きっぱなしになっている。

「もう、見ないで」

「へーなるほど、結婚に出産、相手のスペックね」

世界が雑誌を拾い上げると顎に手を当てながら視線を流していく。

「ちょっと」

「仕事のキャリアも大事……パートナーとは家事分担が理想か……」

慌てて取り上げようとするが、背の高い世界は雑誌を両手で高く上げて読みながら意地悪く笑った。

「いいですよ」

「何がよ?」

見れば世界が雑誌をラックに仕舞い、コーヒーカップをシンクに持っていき水を流す。

「いいわよっ、置いといて!」

「俺、料理も掃除も好きなんで」

「やめてよ、私が家のこと何もできないみたいで嫌なのっ、触らないでっ」

世界は私の言葉などまるで聞こえていないかのようにDVDも片付けていく。

「てゆうか毎日遅くまで残業して完璧に業務こなして家でも完璧にしてたらマジ倒れますよ。いいじゃん、掃除とかできなくたって。これからは俺やるし」

「これからって……」

「だっていま俺が梅子さんのパートナーじゃん」

世界は嬉しそうに歯を見せて笑うとさっとマグカップを洗い、呆然とドライヤー片手に固まっている私をうしろから覗き込んだ。
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