皇妃エトワールは離婚したい~なのに冷酷皇帝陛下に一途に求愛されています~
 アルフレートが執務に戻った後、エトワールはレーネにも休んでいていいと伝えた。
 時間を持て余したエトワールは、これから先の作戦を立てることにした。闇雲に動いても、思うようにはいかないものだ。どうせ寝ているのならば、時間は有効に使いたい。
 エトワールの目的は、一度目の結婚生活と同じ結末を迎えないことだ。今回のこの二度目の結婚生活では、きっとアルフレートを生かしてみせる。

「そのためには、アルに好かれないようにすればいいのよね」

 一度目の結婚生活では、エトワールはアルフレートの片腕として得意な魔法を使い、活躍していた。互いに支え合ううちに会話を繰り返し、いつの間にか惹かれ合い、命を落とす前には溺愛と言うに相応しい状況だったと思う。

 だからこそ狙われたのだ。
 アルフレートがエトワールを愛さなければ、あの場にアルフレートが来ることはなく、シュテルフェン皇国が滅ぼされることもない。子供もできることはなく、万一攫われたとしても失われるものはエトワールの命くらいだ。

「でもそうすると、もしかしてもっと早く離婚される可能性もあるということかしら?」

 シュテルフェン皇国は戦勝国だ。たとえ離婚しても、敗戦国であるユーヴェリー王国の『人質』のエトワールを、国に返してくれるとは思えない。殺されることはないだろうから、離宮や王城に軟禁されるか、よくて監視付きで城下での暮らしをさせられることになるだろう。

「閉じ込められるのは嫌だから、脱走方法も考えておきましょう」

 前回はアルフレートと仲睦まじく暮らすことに重点を置いていた分、騎士や官吏たちとはあまり仲を深めてこなかった。二度目の結婚生活では、仲よくなっておけば、いざという時に脱走やお忍び外出の手伝いを頼めるかもしれない。

「離婚できた時のために、城下のことも知っておかないといけないわ」

 魔力量が以前のままならばどうとでもできたが、少なくなってしまった今では難しいことも多い。正直魔法さえ使えれば、野宿であっても不便はなかったのだ。
 それができないのだから、仕事や住む場所等については調べて、場合によっては手に職をつけておいた方が安心だ。

「あとは、これから未来に起こることだけど……」

 少しずつ記憶がはっきりとしてきた。
 様々なことがあったが、特に大きな事件と言えば、三カ月後のスピーテ川流域の豪雨と、三年後の高位貴族による反乱のふたつだろう。

 スピーテ川は皇帝直轄であるヘリング領にある川だ。ヘリング領はシュテルフェン皇国の南部に位置しており肥沃な土地のため、国内でも有数の小麦の産地だ。その川が局地的な大雨によって氾濫し、川沿いに作られている小麦畑の約半数がダメになってしまったのだ。
 一度目の結婚生活では、ちょうど南隣の国との外交のために辺境にいたエトワールが駆けつけ、得意の魔法で早期復興の手伝いをした。
 雨水を一気に浮かせて臨時で建設させた貯留池に移動し、土地を乾燥させたのだ。それでも一度ダメになってしまった小麦畑は簡単にはもとに戻らず、小麦価格の高騰と飢饉に繋がった。

 高位貴族による反乱は、アルフレートの政治に前皇帝派の高位貴族が反発してのものだったが、飢饉によって生活が苦しくなっていた民衆が貴族たちの口車に乗せられてしまったことも大きい。

 未来を知っているのだから、できれば災害を食い止めたい。
 エトワールが先に理由をつけてヘリング領に滞在しておけば、今度は未然に防ぐことができるだろうか。水の流れを速くしたり、雨水をこまめに川から離れた場所へ移動させたり──。そこまで考えて、エトワールは愕然とした。

「今の私、あんな魔法使えないじゃない……っ!」

 魔力量が少ないのでは、大規模魔法は使えない。まさかこんなところで自身が大規模魔法を使っていたとは思わなかった。
 エトワールは逆行の理由について調べようとしていたことなどすっかり忘れ、どうにかして被害を最小限に抑えることができないかと、その日一日、寝台の中で頭を悩ませていた。
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