【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「へへっ。そんなに美味そうに食ってもらえたら、料理人冥利に尽きるってもんだぜ」

「お菓子、今日もおいしいよ!」

「そりゃあ嬉しいな。だが、さすがに坊ちゃんは食べ過ぎだ。夕飯入らなくなるから、これで終わりだぞ」

「えええっ~~~」
 
 あと一個! と駄々をこねるイアンと、ダメ! と首を横に振るシェフ。

 二人の賑やかなやり取りをほほ笑ましく眺めていると、アシュレイがキッチンにやって来た。

「お疲れさまです。お客様はお帰りになられたんですか?」

「ええ。手違いで女性を紹介してしまったと、紹介所の人たちが謝罪に来ました」

 ミスしてしまった女性職員は、顔面蒼白になりながらアシュレイに頭を下げていたらしい。
 
 手違いとはいえ、この仕事を紹介してくれた彼女のためにも、しっかり勤め上げなきゃ。
 
 もういちど改めて「頑張りますので、よろしくお願いします」と畏まってお辞儀をすると、アシュレイもつられたように頭を下げた。
 
「こちらこそ、イアンをどうぞ宜しくお願いします。実は始業式まで一ヶ月しかないのですが、俺は生まれが庶民なのでマナーには自信がなくて。といっても、マナーだけじゃなく、子育て自体も上手くできているか不安ばかりですが」

 アシュレイが表情を少しだけ緩め、優しい目でイアンの姿を眺める。

 これまでの話から察するに、二人は本当の親子ではないみたい。何か事情がありそうだが、家庭教師になったばかりの私があれこれ聞くのもはばかれる。
 
 いずれ必要があれば教えてもらえるでしょう、と余計なことは詮索(せんさく)しないことにした。
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