僕の欲しい君の薬指
思いの外近くに迫っている相手に驚いて咄嗟に立ち上がって「いえ、全然待ってないです丁度今来たところです」とドラマにありがちな台詞を吐く。くるりと振り返った私の視線が留まった先にいるのは、落ち着いた色のカジュアルなセットアップを身に纏っている榛名さん。
「少し授業が長引いたから月弓が待ちくたびれてたらどうしようって思ってた」
「あはは、そんな数分だけで待ちくたびれたりしないですよ」
「可愛い」
「え?」
「いつも可愛いけど、今日の月弓はいつも以上だな」
「……」
「俺との食事だから気合入れてくれたって、勘違いしそうなんだけど?」
図星だ。榛名さんの勘違いではない、友人と呼んでいいのか分からないけれど兎に角榛名さんとの食事が楽しみで、熟考に熟考を重ねてこの装いを完成させたのだ。
気付かれたとしても「たかが食事に気合入ってるな」って笑われるだけだろうなと踏んでいただけに、私の予想を裏切って嬉しそうに目を細める相手に顔が熱くなる。
予約の時間が迫ってるから取り敢えず行くか。相手の言葉に短く返事をして、鞄を肩に掛けた。そのまま歩を進めようとしたけれど、一歩踏み出すよりも先に私の手を榛名さんに握られた。
「デート」
「……」
「今日、一応俺にとってはデートのつもりだから」
”だから、嫌だったら振り払って”
弧を描く彼の唇が放った台詞に、ああそうですかと振り払う度胸を私は持ち合わせていない。それに……榛名さんと手を繋いでいる事に微塵も嫌悪感を抱かなかった。
ただ純粋に恥ずかしくて、例によって頬に熱が溜まる。それを隠す様に私が顔を俯かせたのが合図だったのだろうか。「ん、じゃあ行くか」そう漏らした榛名さんは、繋いだ手を解かぬまま歩き出した。