僕の欲しい君の薬指





もしかしたらとは思っていたけれど、榛名さんに連れられて到着したリストランテはお上品な店構えで凡人の私を圧倒した。服装に気を遣っていて正解だったと胸中で呟いたのも束の間、相手に手を引かれて入店し促されるがまま着席した。



「月弓」

「は、はい!」

「月弓は嫌いな食べ物とかある?」

「ほぼない…あ、ピーマンが苦手です」

「ふはっ、子供みてぇだな」

「で、ですよね」

「好き嫌いまで可愛いとか反則」

「え?」

「……パプリカもアウト?」

「あ、パプリカなら辛うじて食べられます」

「ん、了解。注文決められそう?」

「……私には難易度が高そうです」

「じゃあ俺のオススメで良い?」

「お願いします」

「決まり。ピーマンはないから安心して」


メニューをパタリと閉じて、店員さんに手早く注文を済ませた榛名さんが徐に鞄から取り出した雑誌をテーブルに置いた。それに対して、私の心臓がドキリと音を鳴らした。






榛名さんが取り出したファッション誌。その表紙を飾っている優艶な人物の隣に「羽生 天」の文字が羅列していた。表紙越しにアンニュイな表情を浮かべている彼と視線が合う。

どうやら雑誌は羽生 天の特集を組まれているらしく、ペラリペラリと榛名さんが頁を捲るごとに違う端麗な表情を湛える天糸君が現れる。

頬杖を突きながらそれに視線を落としていた相手が、不意にそれを持ち上げて双眸に私の顔を映す。



「月弓、羽生 天知ってる?」

「はい」



知っていると云うより、従弟です。何て云えるはずもなく、どうしてそんな質問をしたのだろうと首を捻った。



「Apisってアイドルグループは?」

「知ってます。大人気ですもんね、テレビでも街中の広告でも見ない日はないってくらい……あ、あの、榛名さんってApisがお好きなんですか?」



羽生 天の特集が組まれている頁が終わるなり、突然興味が失せたみたいに雑誌を鞄に仕舞った相手がクスクスと肩を揺らすから、私の脳内には疑問符が浮かぶ。


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