僕の欲しい君の薬指





罪悪感と背徳感に蝕まれる事は別に今に始まった事じゃないし、もうすっかり慣れているから平気だ。こんな風に自分の心に言い聞かせるのは何度目だろうか。数え切れない位に多く繰り返している事だけは確かだ。


結局、私は何とも決別できていなくて何も投げ棄てられていないのだと痛感する。


その証拠に、間接照明の明かりだけが灯る寝室のベッドに私はこの子と潜っている。

鼻を掠める彼の甘く濃い香りと、熱い体温。無音を切り裂く様に響く彼の呼吸音と、私の頬に触れる彼の吐息。そして腰から背中に掛けて回された彼の腕と密着する身体。……苦しいのに心地良いと云う矛盾した感情が胸中で蠢いている。



「やっと抱き締めて眠れる。ホテルで全然眠れなかった」

「慣れていない場所だから眠れなかっただけじゃない?」

「違う、月弓ちゃんが傍にいてくれないから眠れなかった。月弓ちゃんは僕が居なくてぐっすり眠れた?」

「……」



眠れなかったよ。その本音をぐっと押し殺して沈黙を貫く私は卑怯者だ。だけど、頭の悪い私にはこれ以外にその場を誤魔化す方法が思いつかない。

表情を曇らせて黙秘する私の頬を、人差し指と中指の甲で優しく撫でる彼がクスリと微笑む。その微笑が酷く甘くて、蕩けてしまいそうだった。

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