僕の欲しい君の薬指
涼海 天糸と云う人物を誰よりも近くで誰よりも長く見てきた自信がある。彼の事をよく知っている自負があるからこそ、この状況に私の勘と本能が警鐘を鳴らしている。
「そう云えば月弓ちゃんと珠々は大学が同じじゃない。僕ってばどうして気付かなかったんだろう。そりゃあ月弓ちゃんからあの香水の香りがした訳だよ、だってあの香水は僕達Apisがイメージモデルを担当した奴だもん」
全てを察しているらしい天糸君の放った台詞に私は目を見開いた。
僕達Apis?今、そう云った?視線だけを恐る恐る滑らせて榛名さんを一瞥する。そうして私は漸く榛名さんに対して覚えていた既視感の答えに辿り着いた。ずっと疑問だった点と点が繋がって一本の線になる。
榛名 珠々…そうだ、榛名 珠々は天糸君の所属している国民的人気アイドルグループのApisのメンバーだ。
綺麗な銀髪と端整な顔立ち、そして鍛えられた美しい肉体。間違いない、榛名さんは天糸君と同じアイドルだ。そして榛名さんとランチをしたあの日に邂逅した妃良 綺夏さんは、Apisのリーダーだ。
そりゃあ既視感を抱くに決まっている。だって彼等は見ない日がないまでに売れっ子で絶大な人気を誇るアイドルグループなのだから。
幾度となくApisの出演している番組や雑誌を目に映して来たのに、彼等が起用されている広告だって街中にあるのに、ヒントはこんなにも散らばっていたのに、今の今まで私は答えを見つけられなかった。
何故なら私は、認めたくないけれど羽生 天しか見ていなかったのだ。