僕の欲しい君の薬指



依然として私の腹と腰には彼の長い腕が巻き付けられている。もしかして榛名さんの事を考えているのが顔に出てしまっていたのだろうか。



「五秒」

「え?」

「最近ずーっと、月弓ちゃんの目線が合う時間が長くて五秒」

「……」

「それに、ふとした瞬間に心ここにあらずって顔をしてる」

「そうでもないよ」

「そうでもあるの。月弓ちゃん、まさかとは思うけれど僕以外の人間の事を考えていたりするんじゃないの?」



この場合、何をどう返答すれば危機を回避できるだろうか。もしかするとこの子は単に発破を掛けているだけかもしれない。でも天糸君が相手なのだから本息で私の脳内や心中を察している可能性も否めない。


色々な選択肢が並んでいるけれど、どれが正解なのかが不明で混乱してしまう。ただ一つ確かなのは、天糸君の問いに回答しないと云う選択肢だけは彼の機嫌を損ねる事に繋がると云う事だ。これだけは長年の経験則からありありと分かる。



目を逸らしたら負けだ。今にも彼の威圧に屈してしまいそうになるけれど、それだけは絶対に駄目だ。



「…天糸君」



彼の頬に手を伸ばして、指先で彼の肌理細やかな頬を滑走した。輪郭を撫でただけなのに、気持ち良さそうに貌を綻ばせる彼は可愛い。


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