僕の欲しい君の薬指
「僕だけの月弓ちゃんなんだよ」
「は?」
「僕だけの月弓ちゃんなの。大好きな大好きな月弓ちゃんなの。可愛い月弓ちゃんは永遠に僕だけの物だって決まってるの。月弓ちゃんを愛して良いのは僕だけなの。それ以外は許さない」
「天、お前少し冷静になれ」
「冷静になれ?こんな状況で冷静になれる訳ないじゃない。僕の月弓ちゃんに触れた罪は重いよ珠々。金輪際、月弓ちゃんの目に映る事がないように僕が今消してあげるね」
翡翠色の中にある瞳孔が大きく開いていた。完全に正気を失ってしまっている。信じられなかったのは、天糸君がしきりに甘くて艶やかな笑みを咲かせている事だった。
「でも良かったぁ。月弓ちゃんに近づいたクソ野郎が僕の知っている珠々で良かったぁ」
湿気を含んだ南風に消えて行く彼の愉快に満ちた声色に、自然と表情が険しくなる。不気味だった。兎に角この時の天糸君は何処までも不気味で妖しくて、恐怖心をこれでもかと煽り立ていた。
コテンと首を横に折った彼が美しい双眸で榛名さんを射抜く。玩具同然のちゃっちぃ指環が嵌められている左手で榛名さんの輪郭をなぞった後、その手を拳に変えて振り上げた彼が言葉を投下する。
「おかげですくに殺せるよ」
冗談をこれっぽっちも孕んでいないその一言が鼓膜を突いて消えるよりも先に、私は膝が笑っている足で地面を蹴った。