僕の欲しい君の薬指




どれだけ推理を繰り広げたとしても所詮は私が弾き出す答えなので、名探偵の推理には程遠い。自分の立てた推論への自信は皆無だ。



「さっきから一体誰に現を抜かしているの?」



紅茶の水面に浮いている輪切りされた檸檬がコツンとグラスの壁に衝突した刹那だった。耳を貫いた鋭い発言に背筋が凍る様な感覚を抱いた私の視線は左隣へと移動した。



顔を持ち上げて横へ向けただけでも、相手のひたすらに甘い香りが鼻を掠める。澄んでいて純度の高い翡翠色の双眸に映り込んだ私は、驚きのせいで間抜けな表情を浮かべている。

お互いの鼻先と鼻先が触れるか触れないかの距離に、天糸君の貌がある。どちらかが少しでも前に迫れば呆気なく唇が重なってしまいそうだった。



「…何の事?」



やましい気持ちがあるからか、エアコンが効いているにも関わらず首の後ろから汗がジワリと滲む。


溜め息が出てしまいそうだ。それ程までにこの子の双眸は美しい。顔立ちも背格好も完璧と云う言葉しか出ないけれど、中でも私は天糸君のこの翡翠色の瞳に昔から心惹かれてやまないのだ。


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