僕の欲しい君の薬指
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もしもこの感情に蕾がついたとして、それが花開いてしまったらどうしよう。思案しただけでも苦しくなる。今でさえこの子といるとこんなにも息苦しいと云うのに、感情が花を咲かせてしまった暁には比較しようのない苦しみが私を待っているのだろう。
…だから逃げたんだよ。誰にも告げず、自分の両親にすら打ち明けぬまま大学を決めて私は逃げた。皆から天使と謳われているこの子の隣に居るのが恐くなって、この子を置いて逃げた。
嫌われても恨まれても良いと思っていたのに、この子はこんな非情な私に「愛してる」と云う。
天糸君の口から躊躇いなく落とされる「愛してる」の言葉が、私の感情を激しく揺さぶる。いつまで己の気持ちから目を逸らしているつもりなんだと責め立てる。
目前にある貌の麗しさは、生まれた時から何も変わらない。風を煽いでしまいそうな長い睫毛も、宝石さながらな翡翠色の瞳も、熟れた林檎の様な鮮やかな色をした唇も、協会に描かれている天使顔負けのブロンドヘアも、変わらないどころか美しさに磨きがかかる一方だ。
「天使みたい…天糸君にそう云ったのは、私が初めてなんだよ」
「……」
「天糸君の透き通っている綺麗な瞳に映されると、嬉しいけど苦しくなる」
「月弓ちゃん?」