僕の欲しい君の薬指





天糸君が驚いた表情をするのは珍しいと思う。加えて、困惑した様に双眸を揺らすのもとても珍しい。

彼の熱で、脳味噌まで溶かされてしまったのだろうか。どうしてか分からないけれど、ずっとずっと蓋をしていた自分の心の奥底にある言葉を口に出してしまっていた。



「息苦しいよ。好きと云われる度に、胸が痛いの。天糸君に愛してると云われる度に胸が張り裂けそうなの」



一度蓋が外れてしまったそこから溢れ出した言葉を再び抑制するのは難しくて、意思とは関係なく私の口から零れていく。



「このまま…このまま天糸君に溺れて死ねたら楽なのに…死ねないの。いつまで経っても死ねないの」

「月弓ちゃん待って…「自分の心に嘘をつくのがもう限界だよ」」



“限界だよ、天糸君”



嗚呼、やってしまった。彼の吐息の中に消えた自分の声をやけに冷静に感じながらそう思った。


カチカチと時間を刻む秒針の音が耳に纏わり付く。自らの心すら満足に制御できていない私を嘲笑っているかの様だった。


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