僕の欲しい君の薬指
恋人かな。恋人がいるのに私がここに居候しちゃってても良いのかな。直接本人に訊ねるのも忍びない気がして、どんどん浮かぶ疑問に首を傾げる。
キッチンの方から水道水が流れ出る音がする。珠々さんが早急に水を替えている音で間違いなかった。
「萎れてないよな?二日間くらい水替えしなくても大丈夫だよな?」
独り言にしては大きい声を発しながら、立派なダリアの状態を色々な角度から確認している相手の姿が何とも人間らしくて、漸く珠々さんの人間らしい隙を見る事ができたと思った。
真剣な顔で花を見た後に、やっと安堵した表情を珠々さんが浮かべた刹那だった。
「ただいまー。珠々、荷物。それから常温のミネラルウォーターを頂戴」
何処かで耳にした覚えのある声が、玄関の方から聞こえてきた。
水を替え終わったばかりの珠々さんの表情に台詞を付けるとするならば「やべぇ」と云う一言がぴったりだった。濡れた手を拭って、すぐに常温のお水をグラスに注いだ珠々さんが玄関の方へ消えて行く。
私は数秒後にはここに来るであろう人物に、どう自分の素性を説明しようかと必死に考える。だけど私が名案を思い付くよりも、あちら側が登場する方が圧倒的に早かった。
「は?どうしてこの子がいるの?」
「あ、事前に説明すんのも忘れてた」
私の前に現れたのは、今日も隈なく美しい妃良 綺夏さんその人だった。