僕の欲しい君の薬指
自分がやっている行いは、天糸君との関係をだらだらと引き延ばすだけの物で何の解決策にもなっていない。かといって、打開策も見当たらない。
彼を恋しく感じる心臓がいっその事止まって欲しい。そうしたら何も考えずに済むのに、彼を愛したまま死ねるのに…なんて、最低な思考を巡らせる位には余裕がない。
「絶対に世間に秘密を貫き通す。それが、月弓ちゃんと天の恋愛を許す条件だよ」
「条件?」
「そう。僕達アイドルはファンを裏切る行為だけはしてはいけないの。それだけはしてはいけない。僕達はファンの妄想通りの人間になるのがお仕事だし、ファンの想像している脚色がふんだんに盛られた人物像になりきるのがお仕事なの」
「それなら余計に、恋愛なんてしちゃ駄目だと思います」
自分で言っておきながら心が深く傷を負う。妃良さんも、変に期待を煽る様な発言をしないで欲しい。そんな甘い誘惑を吐かれてしまっては、脆弱な私の心はどうしても惹かれてしまいそうになる。
妃良さんはきっと、私をきっと試しているのだろう。そう踏んでいたと云うのに、妃良さんは首を横に振って「それは違うよ」と開口した。