僕の欲しい君の薬指
右手で頬杖を突き、左手でつい先程珠々さんが慌てて水を取り替えた花瓶で咲き誇っているダリアの花弁を愛撫しながら、「別に可笑しな事を言ったつもりはないよ」と短く紡ぐ彼。
「お前、事務所以上に監視の目を光らせていただろうが。それなのに今のお前の発言は何だよ、まるで天と月弓が両想いならばくっつけと推奨してるみたいだな」
「みたいじゃなくて、推奨しているんだよ」
「あ?」
「そうやってすぐ感情を顔に出すのは、時に命取りになりかねないから直せって何度も言っているのに珠々は馬鹿なの?全然直す気ないじゃない」
「お前のせいだろ」
「人のせいにするなんて二歳児でもできるし、僕のせいじゃないけど?」
「俺達の恋愛を禁止してるのに、天の暴走している恋愛だけは応援すんのか?」
「ふふっ」
「何が面白いんだよ」
「僕、一度たりとも恋愛を禁止した覚えなんてないんだけど?」
「…はぁ?」
目を細める珠々さんの表情から察するに、さっきからずっとこいつは何を言っているんだと云う心の声が聴こえる。一方で、テーブルに散っているダリアの花弁を摘まんだ妃良さんは、自分のペースを絶対に乱さない。
掌に乗っている花弁に彼がふーっと優しく息を吹きかける。そうするとふんわりと舞い上がって、ユラユラと宙を彷徨いながら花弁が再び散っていく。その様はまるで、私の天糸君に対する情愛を映し出しているみたいだった。