僕の欲しい君の薬指


こんな調子で彼への想いを隠し通せるのだろうか。もうすっかりあの子を恋しく感じている心に溜め息が零れる。



「何ボーっとしてんだよ。さっきから上の空って感じだな」



横から声が掛かって肩がピクリと跳ねた。咄嗟に切り替えた視界を独占するのは、勉強の手を止めてこちらを見てゆるりと口角を上昇させている珠々さんの顔。相手の集中力を切らせた事に申し訳なさを感じ、「すみません」そう漏らした。


たった三日しか離れていないのに、体感では随分と長い時間天糸君と離れている感じだ。次に会った時には平静を繕って、大人として振る舞わなければならないのに、私はまるで成長できていない。



「何で謝んの」

「珠々さん、忙しいのに何から何までやって貰っている上に勉強の邪魔をした気がして…「相手が月弓だからだけど」」

「え?」

「だから、相手が月弓だから何から何までやりたくなんの。俺が好きでやってんだから気にすんな」

「……」



唖然とする私の髪がくしゃくしゃと撫でられる。こうして私の頭を撫で付けるのがすっかり珠々さんの癖になった。そしてその体温が優しくて、不覚にも胸が揺さぶられてしまう。


< 212 / 305 >

この作品をシェア

pagetop