僕の欲しい君の薬指



予想だにしていなかった人物の登場に泡が付いている手が止まる。数日間離れただけなのに、もう何年も会っていなかったかの様な懐かしさが込み上げる。だけど素直に彼との再会を喜べなかった。


何故なら、天糸君の顔色が異常に悪かったからだ。説明されなくとも彼の体調が優れない状態にある事は一目瞭然だ。いつも血色の良い桃色をしている唇が青紫色に染まっている。


そもそも、どうしてこの子が私の目前に現れたのだろうか。だって彼は今、病院で治療を受けているはずなのだ。絶対安静を課せられて体調が回復するまで入院していなければならないはずなのだ。


混乱して頭が真っ白になった。チラリと一瞥した白くて血管が透けて見える彼の腕には、点滴の針が刺された痕らしき物が見受けられる。加えて、そこが青紫色に痛々しく内出血していた。



「天糸君どうしてここに?病院はどうしたの?入院は…「煩い、黙って」」



彼らしくない低い声にピシャリと遮断されて思わず口を噤む。眉間に皺を寄せて眼光を鋭利にさせた相手は、こちらに向けた視線を一切逸らさずにぐんぐんと勢いをつけてキッチンに踏み込んだ。


泡だらけの皿とスポンジが握られている私の手に数秒だけ目線を落とした後、嫌悪感と深い憤りを孕んだ表情を浮かべた。


< 221 / 259 >

この作品をシェア

pagetop