僕の欲しい君の薬指
「ぎぃゃやぁあああ!!!!」
抱き締め合って微笑んでいた私達を現実に引き戻したのは、耳を貫く様な絶叫だった。家中にこだますそれに私と彼の視線が同時に滑る。双眸が捕らえたのは、こちらを凝視している綺夏さんの姿だった。
悍ましい光景に遭遇したかの如く、ガタガタと震えている。加えて綺夏さんの顔色はとても悪い。
「ちょっと…どう云うつもりなのあんた達!!!この惨状は何なのか説明して頂戴!!!」
私達を指差して叫んだ相手が若干白目を向いて足許をふらつかせる。そのまま卒倒しそうになった綺夏さんを軽々と受け止めたのは、車の鍵をくるくると指で回している珠々さんだった。
「勝手に病院抜け出して全員を焦らせておきながら、人ん家で何やってんだよ」
過呼吸を起こしそうになっている綺夏さんの背中を撫でて水を差し出しながら、珠々さんが天糸君へ視線を向けて苦笑する。しかしながら言葉を投げられた本人は、あからさまに仏頂面をして貌を逸らしてしまった。