僕の欲しい君の薬指

天糸君が小学五年生の頃、街中で偶然撮られた彼の写真が大手芸能プロダクションの目に留まりスカウトされ、そのまま芸能界入りを果たした。意外だったのは、彼がすんなりと事務所と契約を結んだ事だった。



我が儘で自由奔放な天糸君の性格を加味すれば、ごねるかバッサリと拒否するかの二択かと思われたのだけれど、彼の母親曰く「それがね、びっくりするくらいにあっさりと快諾しちゃったの」との事らしい。

練習生として事務所に所属して以降、殆ど毎日ダンスや歌の練習漬け。飽き性でもある彼が途中で放棄もせずに練習に励む姿を恐らく誰よりも近くで見て来た私は、アイドルとして何としてでもデビューしたいと語った彼にとても感心したし、心から応援した。



「月弓お姉ちゃん、僕ね、デビューが決まったの」



そして天糸君が中学二年生になる年に、彼は夢だったアイドルデビューの夢を掴んだ。彼の学業に支障が出る事を懸念した彼の両親や私の両親は、彼の母親の旧姓を使い「羽生 天」として芸能界で生きる道を彼に勧め、天糸君自身もその提案をすぐに受け入れた。

彼が夢を叶えたのだと報告をしてくれた時、本当に嬉しかった。自分も一ファンとして彼を支えていきたい。そう思った。



そう思っていたのに……。



「何…してるの天糸君」

「あーあ、バレちゃった」



天糸君と私の関係性は、ある日突然ぐしゃぐしゃに崩れ落ちてしまった。



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