僕の欲しい君の薬指
忘れもしない。彼が芸能界デビューを飾って間もない時だった。学業の傍ら芸能活動をする天糸君は忙しそうだったにも関わらず、よく私の家に遊びに来ては食卓を一緒に囲った。それだけでなく、自分の家には帰らず泊まる事が殆どで必ず私の部屋で眠りたがる彼に、私の両親も彼の両親も「本当の姉弟みたいだ」と私達の関係を形容していた。
自分に懐いて甘えてくれる天糸君を可愛く思っていたし、一人っ子の自分は下に弟や妹のいる同級生が羨ましくて、私自身も天糸君を実の弟の様に感じていた。
「僕、月弓お姉ちゃんと眠りたい」
それはいつもと同じ、彼の愛くるしい我が儘だった。私はいつもの様にそれを歓迎した。それから一緒にベッドに潜って他愛無い会話をして眠りに落ちた。
深夜を過ぎた頃、不意に身体に違和感を覚え瞼を持ち上げた。朦朧とする意識の中、何回か瞬きを繰り返す。やがて鮮明になってきた視界に飛び込んだ光景に目を疑った。
私の上に馬乗りになった天糸君が、妖しい笑みを浮かべてこちらを見下ろしていたからだ。窓から射し込む月明かりによって蒼白く浮かぶ相手の美しい貌。天糸君は困惑を隠せないこちらを余所に指先を私の唇の上で滑らせた。
「好き」
「何…言ってるの」