僕の欲しい君の薬指


私からのこの返事だけを待っていた。そう云わんばかりに破顔した彼が、熱の籠った吐息を零す。



「仕方ないね、大好きな月弓ちゃんのお願いだもん、写真は投稿しないでいてあげる。その代わり、僕の云う事をちゃあんと聴いてね」


“僕だけの月弓ちゃん”



電源を落とし、画面を暗くさせた携帯端末を乱雑にテーブルの上へ投げ捨てた彼が私の身体を引き寄せてすっぽりと腕の中に収納した。私の頬に掛かった髪を彼の指が優しく払い除ける。鼻を突く甘い香りに噎せ返りそうだった。



嗚呼、惨めだ。私がどれだけ藻掻いて藻掻いて必死に水上に顔を出そうとしても、三歳下のこの子が軽く腕を伸ばしただけで足許を掴まれ深い深い海の底へと逆戻り。

何もかもが、天糸君の思い通りだ。



泣き叫びたい気持ちを押し殺し、口を閉ざしたまま深く頷いた私を双眸でじっとりと舐め回した後、トロトロに蕩けた甘ったるい声色で「愛してるよ」と囁く彼。



「あ、云うの忘れてた。大学入学おめでとう。邪魔な大人が消えた環境で月弓ちゃんと生活を営めるなんて…」



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