僕の欲しい君の薬指


反射的に身を乗り出して携帯端末を握っている手首を掴み彼の動きを制し、恐る恐る彼と視線を結ぶ。相手の思う壺だと分かっていても、無視する訳にはいかなかった。



「ちょっと待って…下さい。お願いします」



激しい屈辱に呑まれたまま、途切れ途切れに言葉を紡ぎ出す。百万人以上の眼光に晒されながら息苦しく生きるよりも、天糸君の歪な愛に晒されながら息苦しく生きる方が天秤にかけるとよっぽどマシだ。それが、私の咄嗟に出した結論だった。


暗中模索になるかもしれないけれど、大学の四年間と云う猶予を過ごす中で天糸君から逃れる術が見つかるかもしれない。だから今だけは、彼の掌の上で踊る事に甘んじよう。


今だけだ。きっと、今だけだ。天糸君だっていずれは私に飽きてくれるかもしれないのだから。



「ごめん…なさい。天糸君に何も告げずに逃げた事なら何度でも謝るから。それだけはやめて下さい」

「補足として付け足すけど、この写真は既にPCを含めた五つ以上の端末に保存されているから削除しようなんて思っても無駄だよ」

「うん、分かってる」



嘘でもはったりでもないのだろう。抜かりのないこの子の事だ、本当にちゃんとデータをコピーして保存しているのだろう。

氷の溶け切った檸檬紅茶の入ったグラスが汗をかいている。その汗がグラスを伝って流れ落ち、テーブルの上に水溜まりを作っていた。


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