僕の欲しい君の薬指
さっきまで三メートル先から聴こえていたはずの声だった。艶のある、バリトンボイス。驚いて咄嗟に顔を上げた私の目前で、銀髪の奥から覗く切れ長の眼が細められた。
「……」
「ここ、誰もいねぇから完全に気抜いてたわ」
「……」
「まさか先客がいたなんてな」
ただただ美しかった。天糸君とは違う美しさだった。アイスの棒を咥えたまま、彼がゆるりと口角を持ち上げる。その表情にまた呼吸が奪われる。
「榛名」
「え?」
「俺の名前。榛名 珠々。真珠の珠二つでじゅじゅって読む。あ、女みたいな名前だって思った?」
呆気に取られている私を無視してどんどん言葉を並べていく相手が唐突に投げた質問に、慌てて首を横に振った。「女みたいっていうよりは、可愛いなとは…思いました」素直な感想を述べればくしゃりと表情を崩して「それ、女みたいって思ってるのと変わんねぇから」と返された。
確かにそうかもしれない。改めて指摘されると自分の発言が無性に恥ずかしくなって身体が火照る。
「あんたの名前は?」
「へ?」
「何、俺だけ自己紹介すんのはフェアじゃなくね?名前、教えろよ」
何て言うか、ある意味マイペースな人だ。強引で傲慢な感じなのに、嫌な気が全くしないのも不思議だ。ペースを持って行かれるどころか完璧に掌握されてしまっている私は、首を傾げてこちらが開口するのを待っている相手にオロオロしていた。