僕の欲しい君の薬指



天糸君もこの人もそうだけれど、どんな表情を浮かべていてもまるで隙がない。どの角度から視線を刺そうとも、不意を突こうともただただひたすらに美しい。

私なんて地下鉄に乗っている時にふとした瞬間に窓硝子に映る自分の油断した顔の恐ろしさや、暗くした携帯の画面に映る隙だらけの自分の顔に何度絶望したか分からないと云うのに。



月弓(つくよ)です」

「……」

「ふーん、じゃあ涼海 月弓があんたの名前?」

「そうなりますね」

「ふはっ、何でそんなに他人行儀なんだよ」



盛大に吹き出してお腹を抱える彼は、くしゃくしゃな笑顔まで綺麗だった。木漏れ日に照らされる度に相手の耳で輝いているピアスがキラキラと反射している。私が貯金してやっと自分のご褒美として購入するグロスと同じブランドだった。



「月弓」

「…へ?」



ひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を指で拭った相手が突然私の名前を呼んだ。余りにも急だったせいで、私の口から出た声は間抜け色に染まっていた。


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