僕の欲しい君の薬指

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「ていうか月弓って、俺のこと知らねぇの?」



サラリと私の下の名前を呼んで首を横に折った彼に、またもドキリと胸が鳴る。やっぱり私達は何処かで会った事があるのかな、そう考えて相手の美しい顔をよくよく見ながら記憶と照らし合わせてみる。けれどやはり、私達は初対面で間違っていないという結論が出た。



「ちょっと可笑しいなと思うかもしれないんですけど」

「ん?なに」

「さっきからずっと、榛名さんに既視感を抱いています」

「……」

「でも私達、初めましてです…よね?」



榛名 珠々なんて美しい響きの名前にも身に覚えがない。珍しくて印象に残る名前だからきっと過去に自己紹介されていたら覚えているはずなのだ。かといって、自分の記憶に百パーセントの自信がある訳でもない私は語尾に疑問符を付けて相手へ返す。


それを受け取った彼は、少し驚いた様子で目を丸くした後、再び盛大に吹き出して大笑いしてしまった。



「うん、確かに初めましてだ。そっか、俺のこと知らねぇのか。なら俺もまだまだだな」



こんなに目立つ容姿をしているから、もしかするとこの大学のミスターだったりするのだろうか。その辺の情報に滅法弱い私は何だか申し訳なくなって眉を八の字にした。

だけど相手は特に気にも留めていない様子で「そんな困った顔しなくて良いし、月弓は悪くねぇよ」と言って優しく目を細めてくれる。


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