僕の欲しい君の薬指



眉間に皺を寄せて表情を険しくさせる彼が、盛大な溜め息を一つ落とす。

もう少しで私は、あの子と情事をしてしまう所だったんだ…。あんなにも麗しくて優艶な彼に、つい数秒前まで身体を熱くさせられていたんだ…。冷静さを取り戻しつつある脳がそんな思考を巡らせる。


反芻しただけで火を噴いてしまいそうな恥ずかしさに襲われ、ソファに投げ打たれたクッションを抱き締めて思い切り顔を埋めた。



「分かったよ、引き受ける」



仕方ない。そんな言葉が続きそうな声色で返事をポツリと漏らした彼が何度か相槌を打った後、通話を終了させて携帯を乱暴にテーブルへ捨てた。



「泊まりでロケの撮影入ったから二時間後にマネージャーが迎えに来るんだって」

「今から行くの!?」



明かされた通話の内容に驚いているのは私だけで、急遽仕事が決まったはずの彼はソファに腰を沈めて気怠そうに背中を凭れさせている。依然として拗ねた様子で、二時間後にはマネージャーさんが来るにも関わらず、焦る気配が全くない。


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