僕の欲しい君の薬指



法律では従姉弟同士結婚は認められているらしい。だけど私にとって、幼い時から時間を共にして過ごしたこの子と“こういう情事”を致すと云う事は、禁忌を犯すのと同等だった。



例え法律が赦しても、私が私を赦せない。私と違ってこの子は将来有望な才能に溢れた国民的アイドルだ。街を歩けば必ずこの子の姿が目に触れる程に、天糸君は世間に認知されている人なのだ。

きっと世間も私を赦してくれないだろう。そう云う結末を避ける為に一人であれこれ策を練って足掻いてみたけれど、この子は最低で最悪な結末の道へと私を引き戻してしまう。


誰かの目を惹くまでの魅力なんてない空っぽな私なんかに執着したって損害しか被らないはずなのに……それなのに、天糸君はいつも真っ直ぐ私を見つめ、艶やかに貌を綻ばせて「愛してる」と言葉を添える。



このまま本当に禁忌を犯してしまうのかな。このまま一線を越えて、私は全てを敵に回してしまうのかな。自分の事だと云うのに、何だか他人事みたいだった。脳味噌が現実を受け入れたくなかったからなのかもしれない。


心はすっかり引き裂かれ、ズタズタに傷ついていた。



「漸く月弓ちゃんが僕の物になる。嬉しいなぁ」

「……」

「月弓ちゃん処女だから怖いよね。僕も初めてだから同じだよ。できるだけ優しく、いっぱい愛してあげるね」



私の内腿へチュッと唇をくっ付けて彼が腰を更に深く沈めようとしたまさにその瞬間だった。



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