僕の欲しい君の薬指



相手の貌色が一変するのが手に取る様に分かった。それもそのはずだ。この着信音は天糸君の仕事関係のそれだからだ。



「……こんな時にムカつく」



頬にめいいっぱい空気を含ませて不貞腐れた彼の幼い表情を見て、不覚にも可愛いと思ってしまう。両手首にあった重みが消えたと同時に、私の身体に密着していた彼の体温が離れていく。天糸君のいなくなったソファはあっという間に冷たくなった。



「はぁ…もしもし」



苛立っているのかくしゃくしゃと髪を掻きながら着信に応じた彼の声は、酷くぶっきらぼうだった。安堵の息を零す間もなく、私は乱された服を慌てて整えた。

胸に散っている赤紫色の印を視界に映して、顔が火照る。危うく私は彼に処女を奪われてしまうところだった。

だからきっと、心臓がドクドクと脈を打って苦しいのは、心と身体が怒涛の展開に追いついていないせいだ。決して天糸君の見せた妖艶な表情や言葉に対してではない。


…あれ、どうして私、こんなにも必死に言い訳がましい言葉を並べているんだろう。強引に理由を付けて無理矢理納得しようとしているみたいだ。



「はぁ?どうして僕なの。絶ッッッ対嫌だ!!!」



心に生じた違和感に首を傾げた私の視線は、珍しく声を荒げて整っている貌を歪めた天糸君へと向けられた。


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