僕の欲しい君の薬指
「月弓を誘ってるに決まってんじゃん。分かり易くテンパる月弓、可愛過ぎ」
「…だ、だって異性の人にご飯に誘われるの初めてで…そ、それに可愛くないです…」
「可愛いよ」
「…っっ」
頬が、熱い。気温よりもずっとずっと熱くなっている自信がある。くしゃくしゃと髪を撫でられて、ベルガモットの香りがより濃くなるのを感じた。
自分の心臓の音が、耳元で鳴っているみたいに騒がしかった。
青々とした葉を身に纏った枝が揺れて、木漏れ日がユラユラと動く。その中にいる榛名さんは、私の頭に手を置いたまま緩めていた唇を開いた。
「一応、俺も初めて異性をご飯に誘うから」
「え」
「月弓に振られると、かなり傷付く」
「……」
異性を食事に誘うのが初めてだなんて嘘だ。嘘に決まっている。そう思うけれど、相手のその言葉が嘘かどうかなんて私には知る術もなくて、例え嘘だったとしても私に合わせてくれた事が嬉しいなと心が揺れる。
「それで、答えは決まった?」
「へ?」
「明日の月弓の時間、俺が貰っても良い?」
甘さを孕んだ声に乗って、再び誘いの言葉が私に降りかかった。この事実が天糸君に露呈してしまったらどうしよう。きっと、否、確実にかなり怒り心頭になるだろうし、そうなった場合、私は彼に何をされるか想像するだけで背筋が冷たくなる。
それと比例して、天糸君に脅えている自分が滑稽で悔しかった。彼から逃れる為に私はこの大学の門を叩いたのだ。私は別に天糸君の所有物じゃないのだから、彼の言い付けを忠実に守る必要だって微塵もない。
「…い。私の明日のお昼、榛名さんが貰って下さい」
コクンと深く頷いて返事を告げた私に、相手が微かに目を大きくさせる。だけどすぐに蕩ける様にそれを細めて、くしゃりと無邪気に表情を崩した。