僕の欲しい君の薬指
人見知りだと自負している私だけれど、榛名さんが隣に居ても不思議と気まずさを感じない。
「あ、そうだ」
何かを思い出した様に声を漏らした隣人につられて、私の視線が伸びる。すっかりアイスクリームを食べ終えて木の棒だけになったそれを咥えている彼が、私の方へ端麗な貌を向けた。
「月弓」
「は、はい」
至って自然に私の名前を呼ぶ榛名さんに私はまだまだ慣れそうにない。天糸君以外にこうして下の名前を呼ばれた経験がないせいで自然と背筋が伸びるし、バクバクと心臓が音を立てる。
「明日のお昼、空いてる?」
「え?」
「空いてる?」
「あ、空いてます」
「良かった。それじゃあ、俺と一緒にお昼を食べてくれませんか?」
相手がコテンと首を傾げたと同時に風が吹いて、私の鼻腔を榛名さんの香りが擽った。
異性からこんなお誘いを受けるのは人生で初めてだった。
「……お、お、お昼?私とお昼ですか?」
気付いた時には裏返った間抜けな声が口を突いて零れていた。指と指を重ねたり離したり、重ねたり離したりしながら視線を泳がせる。誰がどう見ても挙動不審だ。
榛名さんもこんな人間を誘った事を後悔している事だろう。絶対に引かれていると思うし、変な人間だと軽蔑された可能性も否めない。グルグルと巡る思考がどんどん陰鬱に染まっていく。
「ふはっ。ははっ、あはは」
私の思考をピシャリと遮断したのは、愉快に弾んだ榛名さんの笑い声だった。