『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

*

ブブブッ。

役員会議中、ジャケットのポケットにしまってあるスマホが震えた。
ワンコールのように一度だけ。

会議もほぼ終わり、今後の方向性を社長である父親が軽く話している。
ジャケットのポケットからスマホを取り出し、机の下で確認する。

「何っ?!」
「………副社長?……どうかしたのか?」

送られて来たメールの内容に動揺して、声を荒げてしまった。
そんな俺に心配そうな顔を向ける父親。
それと、何事?と言わんばかりに興味津々な視線を向ける重役達。

「社長、申し訳ありません。急用が出来まして、これにて失礼させて頂きます」
「……ん、会議ももう終わったところだ。行って構わないぞ」
「申し訳ありませんっ、失礼します!」

重役達が視線を向ける中、会議室を飛び出した。
すぐさまメールの送り主である専務秘書の岡本へ電話する。

『はい、岡本です』
「仁科だ。芽依っ、……如月は今どこに?」
『医務室で休んでます』
「すぐ行く」

エレベーターのボタンを連打し、スマホを握る手が震える。
尋常じゃないほど鼓動が激しく鳴り、居ても立っても居られないほど焦りが募る。

『如月さんが階段から落ち、怪我をされたようです』

岡本からのメールにそう記されていた。



医務室に到着すると、額にガーゼ、手首と脹脛に包帯、左足首にタオル越しに氷嚢を当てている芽依がいた。
しかも、顎に鬱血したような痣まである青白い顔で。

「今、安定剤飲んで休んだところです」
「彼女の具合は?」

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