『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「足首は軽い捻挫だと思われます。額と手首の傷は、倒れた際に出来た傷かと」
「頭は打ってないんでしょうか?」
「詳しいことは病院で検査した方がいいかと思いますけど、ここに運ばれて来た時は意識もありましたし、自力歩行できたので、脳には問題がないと思いますが」
「……そうですか」

思ってたより傷が軽いようでホッとした。

「ですが、副社長」
「……はい」
「脹脛の傷は、落下や転倒によるものではないと思いますよ」
「……どういう意味?」
「鋭利なものでできた裂傷痕ですから」
「え?」
「恐らく、転倒する前にできたものだと思います」
「………」

今朝の時点では傷なんて無かったはず。
紙や刃物で切ったとしても、手や腕ならともかくとして、脹脛を切る……ことなんてあるだろうか?

それに、普段からエレベーターやエスカレーターを使うことはあっても、彼女が階段を使ってるところを見たことが無い。
絶対使わないとは言い切れないが、何かが引っかかる。

「彼女のこと、お願い出来ますか?」
「はい」
「……また来ます」

医務室を後にし、自室へと向かった。

「失礼します」
「悪いな、呼び出して」
「いえ」
「さっきはメール、……ありがとう」
「いえ」
「……何か、知ってそうな顔だな」

専務秘書の岡本を自室に来るようにメールを送っておいた。

「あの、……副社長は如月さんとどういう、ご関係でしょうか?」
「どういう……、それを答えたら教えてくれるのか?」
「……そうですね、私が知っていることであれば」
「………付き合っているというか、近々婚約するつもりだ」
「婚約……、では、キサラギ製薬との関係も視野に入れてということで間違いありませんか?」
「……あぁ」

< 136 / 194 >

この作品をシェア

pagetop