『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「はぁぁぁぁ~~~っ」
バレなかったよね?
大丈夫だったよね??
頭を抱え、床に座り込む。
車内でのあれがバレてしまったら、秘書を続けられない。
やっと秘書の仕事にも慣れて、彼の信頼も得られているこの生活に終止符は打ちたくない。
もう彼に触れるのは止めよう。
程よい距離感を保ちつつ、仕事に専念しなければ……。
私は彼の秘書。
それ以上でも、それ以下でもない。
彼が求めているのは、『秘書』という存在だけだ。
キャリーケースから彼の下着を取り出し、バスルームへと。
もう見慣れた。
初めて男性の下着を見た時はドキッとしたし、緊張もした。
けれど、この下着を見るのは、私だけではない。
彼と甘いひとときを交わす女性たちなら、誰でも見ることが出来る。
それも、下着姿の彼を。
別に見たいというわけじゃない。
そんなシチュエーションになるとも思えないし。
だけど、仕事の時の彼ではない彼を見れる優越感は羨ましく思える。
確かに寝起きだとか、リラックスしてる時の素の彼を目の当たりにすることもある。
秘書だから当たり前だし、自宅にだって入れる関係性なのだから。
だからこそ、分かることもある。
無防備な彼の傍にいたとしても、それはあくまでも『秘書』として。
彼が欲するような『女性』ではないということを。
チェックイン後にすぐに掛けておいたスーツにハンカチを忍ばせ、私服用の服もキャリーケースから取り出し、ハンガーに掛ける。
私にはこんなことくらいしか出来ない。
彼との関係性をどうこうしたいわけじゃない。
彼が必要としている存在になれれば、それでいい。