『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「ハァッ……ハッ……ッ……フゥ~~ッ」
自宅からおよそ十六キロ離れたホテルまで、結構なスピードで走って来た。
週に何回か、自宅でランニングマシーンで走り込んでいるお陰で、ホテルまでは走って来れた。
額から滴り落ちるほどの汗。
息もかなり上がっている。
「ヨシッ、突入開始!」
呼吸がまだ整う前にホテルのラウンジに駆け込んだ。
今日は親が仕込んだ『競りの日』。
兄の代わりに如月の血を引く子供をつくるために、親が品定めした男に値踏みされる。
私を妊娠させる代わりに、親から多額のお金を貰い、授かった子供を如月の籍に入れることを承諾するための品評会のようなものだ。
「丸川物産のっ……常務……丸川………竜則さんですか?」
「はい。……如月……芽依さん?」
「あ、はいっ。……遅く……なりました」
「あっ……いえ」
第一印象は上々。
息を切らしながらダサださジャージ姿で汗掻きまくりで、しかも十五分も遅刻して登場した私は、至って悪びれる風もなく腰を下ろす。
「すみませーんっ!!生ビール大ジョッキで」
「えっ……」
ハイ、キターッ!!
第二印象も好感触でしょ。
濃紺の細身のスーツを着て、縁なし眼鏡が涼しげな印象を与えている彼は、唖然とした表情で私を凝視している。
「お待たせ致しました。生ビール大ジョッキになります」
「頂いてもいいですか?」
「あ、はい……どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
グビグビッと喉を豪快に鳴らして、半分ほどを一気飲みする。
「プッ……ハァァァ~~ッ!やっぱり、汗搔いた後は、ビールが一番です」
「……そうですか」
第三印象は完全にこちらのペースに持ち込めたようだ。