『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

「あっついなぁぁ~~」

ダッシュとまでは行かないけれど、いつもよりかなりハイペースで走って来た分、汗が引かない。
まぁ、それを想定しての展開。

机の下に屈むように背を丸め、ズボンの裾を膝上まで捲り上げた。
そして、上に着ているジャージを脱ぎ、それを腰に巻き、中に着ている半袖シャツの袖を捲り、タンクトップのような状態にした。
高校の体育の授業かよっ、と突っ込まれそうな格好にわざと仕上げて。

高級ホテルのラウンジに相応しくない服装。
ドレスコードがあるわけでは無いから、入店拒否されるわけではないが、明らかに周りの客の視線を掻き集めているのは必至だ。

「あの、……場所変えますか?」
「はい?何故ですか?私はここで十分ですけど」
「あっ、………はぁ……」

そろそろ後半戦に突入しただろうか?

「すみませーんっ!」

上品なBGMが流れている店内に似つかわしくない声。
居酒屋ならともかくとして、場違いな雰囲気は確実に放っている。

「はい、失礼致します」
「おつまみになるような物、ありますか?」
「フードメニューはこちらになります」

スタッフにメニューを手渡され、即時に目を通す。

「ニース風サラダ まぐろのたたきとサラミとハム、チーズの盛り合わせ下さい」
「ニース風サラダ まぐろのたたきとサラミとハム、チーズの盛り合わせですね。少々お待ち下さいませ」
「あの、どうかされましたか?」

珈琲カップを手にしたまま放心状態の彼は、私の言葉に漸く反応した。

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