『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「だいぶお腹が空いてたんですね」
「はい?……丸川さんは夕食要らないんですか?」
「え?」
「だって、夕食の時間帯ですよ?」
「あ、……まぁ……そうなんですけど」
間を繋ぐためにジョッキを持ち上げ、ぐびぐびと喉を鳴らしながら遠慮なく飲む。
お酒に弱い方では無いけれど、こんな風に短時間に一気に飲むことが無いから、正直気持ち悪い。
走った直後の心拍が高い状態でアルコールを一気に飲むようなこと、体に悪いって分かってる。
それでも、見知らぬ男に売られるよりはマシだ。
無理やりこの後に部屋に連れ込まれないようにするために、その気を削ぐことが出来るならば、何だってしてやる。
「あーっ!店員さーん!こっちこっち!!」
私の注文した料理を両手にしているスタッフを発見し、しっとりと曲が流れる店内に発狂するような感じで声を張った。
「お待たせ致しました。ニース風サラダ まぐろのたたきとサラミとハム、チーズの盛り合わせになります」
「わー、美味しそーっ!いただきまーす!!」
目の前の彼に食していいかの許可を得ることもなく、即座にフォークを手に取り、まぐろのたたきを三枚ぶっ刺した。
口の中いっぱいにまぐろが放り込まれ、美味しさを噛み締めることなくごくりと飲み込む。
「……美味しそうですね」
「美味しーですよ?食べます?」
フォークでまぐろの叩き三枚を再び勢いよく刺し、そのまま彼にフォークの先を向けた。
「どうぞ?」
「あ、いや、……僕はいいです」
「遠慮しなくてもいいのに」
とても令嬢には見えない素振り。
品行の無い様は明らかで、見るからに育ちのいいお坊ちゃまにはショックだろう。