『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
ピピピピッ、ピピピピッ……。
「あ、すみませんっ、ちょっと失礼しますね~」
スマホのアラームを停止させ、そのままLive配信を立ち上げる。
日本中央競馬会のレース動画のLive配信。
予め会員登録を済ませておいてあるため、ログインしてレースの実況を生で観る。
息つく間もなく矢継ぎ早に語られる実況は神技とも思えるもので、競馬に詳しくない私でもついつい画面に喰いついてしまう。
テーブルの向こう側に座る彼の存在を完全に消去し、レース動画に集中する。
「……二番のセルドーは中盤のインコース、一、二コーナーの中間地点です。逃げるのは十四番のラグノバー近藤騎手、リード二馬身で逃げます。二番手がシャオヴィレー、八番ノルスティングが三番手、四番手が七番のジャンイー、十番のワイルドミグナーが五番手で、二コーナーから間もなく向こう正面です……」
周りのテーブルからも白い目が向けられる。
「あぁぁぁぁ~~っ、くっそぉぉぉ~っ!!」
実際には馬券なんて買ってない。
けれど、一応ふりはしないとそれらしい雰囲気は出ないから、完全に演じきる。
「負け……たんですか?」
「あっ、はい。……五十万円ほど」
「は?」
「まぁ、いいんですけど。走り込んでビールを空きっ腹に流し込んで。競馬や競艇とか、カーッと熱くなれるものを観ながら、毎日ストレス発散してるんで」
「まっ、毎日ですか?!」
「あ、はい。それが何か?」
「あ、……いえ。素敵なご趣味ですね」
「丸川さんも賭けてみます?結構面白いですよ?」
「あ、いえ……僕はいいです、あははっ……」
「そうですか?」
さして気にする様子もなく、残りのビールを流し込む。
「すみませーん!生ビール中ジョッキ一つ下さーいっ!」