『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
「ゆっくり休めよ」
「……ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
「迷惑なんかじゃないよ。好きな女が、俺の知らない男と食事するのが耐えられなかっただけ」
「え?」
「よく頑張ったな。結構飲んでんだから、今夜はシャワー浴にしとけよ」
「………はい」
「じゃあ、日曜の八時に迎えに来るから」
「へ?」
「週一のデート、忘れたのか?」
「………」
「寒くない格好して来いよ。あ、それと、履き慣れた靴で。……じゃあ、おやすみ」
彼女の部屋のドアの前まで送り届け、下に待機させている社用車に乗り込む。
「自宅まで」
「承知しました」
流れる景色を眺めながら、フッと顔が緩む。
普段仕事での会食の際にも殆ど飲酒しない彼女が、あの短時間で大量のビールを飲んだ。
しかも、豪快に料理をたべつつ、見合いの場で競馬のレース動画を観るって……。
本当に飽きない女性だ。
俺の心をいとも簡単に鷲掴みにする。
それにしても、軽かったな。
初めて彼女を抱え上げ、時間差で嬉しさが込み上げて来る。
普段から細身のスーツを身に纏っているから、スレンダーだとは思っていたけれど。
約二リットル近いビールを飲んだのに、思ってた以上に軽くて驚いた。
それに俺の手と腕と胸に残る、彼女の華奢な体の感触がまだ残っている。
見合い自体は受け入れがたいが、見合いがあったからこそ、彼女に触れられたわけだから……。
プラマイゼロだな。
本当は見合いの場に乗り込む気でいた。
けれど、彼女は俺に言ったように有言実行していた。
毎月全く違うコンセプトで見合いに挑む彼女。
俺の知らないまた新たな彼女を知ることが出来た――――が、もう見合いなんてさせねぇ。
『見合い』なんて思考に至らぬように、この俺が仕向けてやる。