『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす



「おはよう」
「おはようございます」

常識に考えて初めてのデートなら十時待ち合わせくらいがちょうどいいのだろうが、それでは時間が足りない。
一分一秒でも長く一緒にいたい俺は、欲張って八時に彼女の家へと。

十一月中旬という事もあり、ニットのセーターの上にコートを羽織っている彼女は、普段スーツ姿を見ている俺からしたら、とても新鮮で。

「変ですか?」
「いや、美人は何着ても似合うな」
「びっ、……美人ではないですからっ」
「十分美人だと思うけど?」
「………行きましょうか」

お世辞だと思っている彼女は軽く聞き流そうとした。
ま、予想はしてたけど。

「あ、ブーツじゃなくて、スニーカーの方がいいかな」
「え?」
「今日、結構歩くから」
「あ、……はい」

ヒールのあるショートブーツを履こうとした彼女。
シューズボックスから白いスニーカーを取り出し、それを履いた。

「じゃあ、行こうか」



愛車で都心から高速道路を使って千葉へと向かう。

「今日はどこへ行くのですか?」
「着いたら分かるよ」
「あの、副社長」
(きょう)、だよ?」
「………響さん」
「ん?」
「一昨日は有難うございました。醜態を晒してしまい、お見苦しかったとは思いますが、どうか忘れて下さい」
「無理」
「っ……何故ですか?」
「可愛かったし、初めてお姫様抱っこした記念日だから。忘れられるわけないだろ」
「っ……」
「それに、俺以外の男と二人きりで飲食するのは嫌だけど、お見合い自体は潰れてくれたからギリ我慢ってとこだな」
「………」
「もう見合いはさせない。見合いするくらいなら、俺が相手してやる」
「………」
「俺、本気だからな」

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