『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす
約一時間で到着した先は、広大な敷地の牧場。
紅葉シーズンという事もあり、木々の移ろいも楽しみながら、のんびりと自然を満喫しようと思って。
「天気もいいし、絶好のデート日和だな」
「……意外です」
「ん?……何が?」
「副社長のイメージですと、映画館や美術館とか、落ち着いた雰囲気の場所を選ばれるかと」
「まぁ、そういう所もそのうち連れて行くだろうけど、毎日都心にいるとさ、たまには新鮮な空気を肺いっぱいに吸いたくならない?」
「あ、それはありますね」
「だろ?」
「眉間にしわ寄せた堅物社員相手に、ピルフェニドン、オセルタミビル、ワルファリン、アミオダロン…カタカナばっかで目がチカチカするっての」
「っ……フフフッ、そう言われてみればそうですね」
「だから、たまにはのんびりと過ごすのも悪くないだろ」
「はい」
車から降りて、ロングコートを後部座席から取り出す。
さすがに十一月中旬の朝は空気が冷たい。
運転する際は着ぶくれていると邪魔だと思い脱いでいたため、サッとコートを羽織ろうとした、その時。
スッと彼女の手が伸びて来た。
「襟が……」
「サンキュ」
久しぶりの介添え。
当たり前のように慣れた手付きで衣服の乱れを直す彼女。
最近、こういったことを避けられていたのだが、勤務中ではないからなのか。
意識せずにしてくれているのだとしたら嬉しい。
コートの襟を直す彼女の手を掴んで、指を絡ませる。
「っ……」
「行くぞ」
「副社長っ、ボタンは……?」
「いい、歩けば熱くなるだろ」
「………」
「それと、響だからな。副社長としてここに連れて来たんじゃない」
「……はい」
「そんな顔するな」
空いてる方の手で彼女の頭を一撫でする。