『愛獣』放埓な副社長は堅固な秘書を攻め落とす

九時開場の牧場をゆっくりとした足取りで散策する。

「アルパカ、可愛いな」
「餌があげれるみたいですよ」
「マジか、餌は……あ、あそこで買えるみたいだな」

ちびっこに紛れて餌を購入。
子供たちが瞳を輝かせてはしゃぐ姿を視界で捉え、微笑ましく眺めていると。

「ふっ……響さんは、子供好きなんですか?」
「そうだな、好きな方かも」
「へぇ~それも意外です」
「そうか?」
「女性にしか興味がないのかと……っ、ごめんなさいっ、失言ですね」
「いや、そう思われてるだろうなとは思ってたから、別に気にしないよ」
「………」

“しまった”という表情が可愛い。
俺のことで今、脳内を支配しているだろうから。
それだけで満足。
内容がどうであれ、俺を意識してくれているということが何より嬉しい。

「正直言うとさ、別に女好きっていうわけじゃないから」
「え?」
「如月が想像してるような事もさ、別に特段に好きというわけでもないし」
「……そうなんですか?」
「ん」
「では、……どうして?」
「どうして……か。そうだな、強いて言うなら、『自由』が他に無かったから……かな」
「自由?」
「俺らってさ、生まれた時から決められたレールの上をひたすら進むしかなくないか?」
「……そうですね」
「それを苦痛に思うほど反骨精神が無かったというか、うちは片親だからさ、残された父親を悲しませたくなくて。だから、残された中での自由が、ちょっと度が過ぎた遊びになったってだけ」
「……そうだったんですね」

こんな風に心を曝け出したことは今まで一度もない。
仲のいい男友達でさえ、口にしなかったことだ。

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